研究概要
2012年のHiggs粒子の発見は、「真空」は空っぽではなくHiggs場が凝縮しており、その相転移により宇宙が進化してきたことを示しています。またそれは同時に素粒子研究自体も、宇宙や真空、及びそれらを内包する「時空」に対する研究へと自然に拡張される契機となりました。現在では、宇宙の成り立ちを説明する「物質・反物質間の非対称性」や、銀河及び星の形成を支配する「暗黒物質」、さらに宇宙加速膨張の起源となる「暗黒エネルギー」の探索が精力的に行われています。
また恒星の重力崩壊や超新星爆発を始めとして、宇宙空間は「catastrophic現象」の宝庫であり、その生成物であるブラックホールや中性子星、および衝撃波などでは宇宙初期と同様の非常にエネルギー密度の高いプラズマ状態が実現しています。天文観測やシミュレーション上では、これらのダイナミクスにおいて超強磁場が重要な役割を担っていることは理解されていますが、そのような極限状態に対して実際に人類がアクセスする手段が無いため、多くの部分が未解明のままとなっています。これらのダイナミクスをミクロなレベルで理解するためには高温・高密度プラズマの研究が必要です。近年パワーレーザー技術の進展によりそのようなエネルギー密度の高いプラズマが実験室で実現可能となり、宇宙プラズマ現象を素過程から解明する「レーザー宇宙物理学」は、観測、理論・シミュレーションと並ぶ重要な研究手法となっています。
研究課題の「問い」
- 宇宙の進化や時空構造の変遷をたどる上で、磁場が果たしてきた役割を実験的に明らかにできないか?
- 多様な天体現象に対し、強磁場下での素粒子反応やプラズマのダイナミクスを調べることで、新たな素過程を見出すことができないか?
- 時間や空間に対する対称性などの類似性から、そのような素過程を再現する新たな物性を開拓できないか?
上記の「問い」に答えるために、本計画研究は「宇宙」と「強磁場」を共通テーマとして、素粒子物理と宇宙プラズマ物理の研究者が協力し合う学際的研究です。領域の基盤設備である超強磁場システムの使用によって新物理に対する探索感度やパラメータ空間のサイズが増大し、宇宙空間に存在する人類未踏の物理過程を研究することができます。